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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)674号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐久野虎一の上告理由第一点について。

被上告人竹中が原審に提出した参加申立書の記載全体より見れば、所論の「訴状」は、浅井貞雄が原告として提出した訴状であることに疑問の余地なく、右訴状は、昭和二九年三月二一日上告人に送達されたこと、記録上明らかであるから、本件手形金である金十六万一千三百四十一円及びこれに対する右送達の日の翌日である同月二二日から完済まで年六分の割合による金員の支払を命じた原判決には、申立のない事項について裁判した違法があるとはいえない。また原判決は、満期の日に本件手形につき呈示があつたことを認定した上、満期の後である所論の日以降の損害金の支払を命じているのであつて、原判決に、所論の如き理由不備或は理由齟齬の違法があるともいえない。

論旨は、理由がない。

同第二点について。

被上告人竹中は、所論の如く、訴外五島株式会社が本件手形を呈示したとの主張をした形跡はなく、また被上告人竹中は本件手形を甲第一号証として原審口頭弁論に提出したことにより、所論の各裏書譲渡等の事実を主張したものと認められる。従つて原判決には、所論の当事者主義違反はない。また浅井貞雄から白石信明に対する裏書が取立委任のためのものである旨の原判示に、所論の違法があるとしても、右違法は原判決に影響を及ぼすものではないから、原判決に所論の違法はない。

論旨は、すべて理由がない。

同第三点について。

原判決は、被上告人竹中が本件手形の所持人であることを当然の前提とし、同人の本件手形金の請求を認容する趣旨であることは、その判文上自らこれを諒解し得られる。従つて原判決に、所論の違法があるとはいえない。

論旨は、理由がない。

同第四点について。

昭和三一年四月二八日の原審口頭弁論調書に、所論の如き記載の存することは、所論の通りであるが、その一事を以つて、原判示に所論の如き理由不備若くは理由齟齬の違法があるものとなし得ない。また論旨指摘の原判示推認は相当であつて(大審大正一五年(オ)三七七号、昭和二年三月二三日民事聯合部判決、民集六巻一一四頁参照)、原判決に所論の如き違法を見出せない。

論旨は、すべて採用できない。

同第五点第六点について。

論旨は結局、原審の適法に行つた証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰するのであつて、上告適法の理由に当らない。

同第七点について。

手形の振出について、当事者間に争のある場合、その交付の場所等所論の点につき判示することなくして、手形振出の事実を認定しても、所論の如き違法があるものとはいえない。論旨は採用し得ない。

同第八点について。

原判決は、訴外久保正勝が上告人と協議し、その承諾の下に本件手形を上告人の名義を以て作成し、これを受取人である訴外五島株式会社に交付した事実を認定判示していることは、判文自体明白であつて、これを以つて上告人の本件手形振出行為の判示として、十分であるとせねばならない。訴外久保正勝が本件手形を作成するにつき、上告人よりその要件全部に亘り、逐一指示を受けたことを認定判示しなければ、違法であるとはいえない。引用の判例は本件に適切でない。

論旨は採用できない。

同第九点について。

所論の原判示は、結局、訴外久保正勝が上告人の承諾の下に本件手形を訴外五島株式会社に宛て振出した趣旨と解する外ない。従つて引用の判例は、本件に適切でなく、原判決に所論の如き違法はない。

論旨は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

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